▼ご挨拶
私は過去に設計士として、石川県の金沢城の再建(第一期工事)に携わりました。
小さい頃から歴史や古建築に興味があったので、古図や古写真を元に現代の図面を描き起こす仕事に熱中したものです。


今、ニセコエリアで温泉コミュニティー「ニセコ温泉部」を運営し、微力ながら温泉の発展と継承に関わる身となりました。そして私がこれからもっと温泉を盛り上げるために、どうしたら自分らしく活動できるか考えるようになったとき、金沢城再建の経験と古建築愛から「温泉×歴史建築」に着目しました。
私たちが普段、温泉や銭湯の湯に浸かるには、一部の野湯などを除き、浴槽・浴室などを含む建家が必要です。豪華な温泉旅館から素朴でひなびた入浴施設まで、入浴するには建物と浴槽があり、それを守っている人がいます。
そのなかで、重要文化財・登録有形文化財など文化財建築の温泉施設は、少なくとも50年以上の歴史があります。その長く貴重な歴史や風土、背景などを想像しながら入浴を楽しんで欲しいと思います。
文化財建築だから良いとか、文化財建築ではないから悪いとか、そういうことはありません。
特に、登録有形文化財の建築は「登録制度」であるため、文化財クラスの建築物だとしても、所有者のご意向やご都合で、文化財登録をしていない施設もたくさんあります。このような建築はいわば「隠れ文化財建築」。おそらく全国にたくさん眠っていることでしょう。
とは言えやはり、一定基準を満たし文化財と認められた建築はとても貴重でこの国の宝だと思います。
そのような文化財建築の入浴施設は、維持管理やメンテナンスが一般建築よりも大変だということが容易に想像できます。継承していくためには莫大な費用を捻出せねばならず、それを修繕するための建築技術も年々失われています。
私は歴史建築の入浴施設の魅力を発信し、1件でも多くの文化財建築を後世に残すための一助となりたい。そして、これから多くの入浴施設が文化財として、またはそれと同等に価値があるものとして認められていくようなお手伝いが出来れば良いなと考えています。
私に何かできることがあるかも知れません。私がまだ知らない、全国各地の皆さんが知る「歴史建築の入浴施設」をぜひご紹介ください。そして何かお手伝いできることがあれば、お知らせください。
▼文化財(建造物)とはなにか
文化財(建造物)は、日本の長い歴史の中で生まれ育まれ、今日(こんにち)に伝えられてきた貴重な国民的財産です。国宝・重要文化財・登録有形文化財があります。現存する文化財の入浴施設は、「重要文化財」である道後温泉・箱根湯本温泉 萬翠楼福住・金泉楼・上諏訪温泉 片倉館をのぞいて、全て国に登録された「登録有形文化財」です。「国宝」の入浴施設はありません。
建造物は、原則として建設後50年を経過したものは文化財の候補であると言えます。建設後50年を経過したものがさらに一定の評価を得ると、文化財として指定または登録されます。
なお、和歌山県 湯の峰温泉の「つぼ湯」は”入浴できる世界遺産”として有名ですが、文化庁の文化財データベースによると、「つぼ湯」は単体での登録ではなく、”紀伊山地の霊場と参詣道”の構成資産の一部だということから、「つぼ湯」単体として文化財の入浴施設には入れていません。同様に、世界遺産に認定された”石見銀山遺跡とその文化的景観”の中にある温泉津温泉も景観・まち並み(重要伝統的建造物群保存地区)としての認定なので入れていません。また、日本で唯一「名勝」に泊まれる柳川藩主立花邸 御花は、入浴施設がUBのため「文化財の入浴施設」の一覧からは除外しています。
▼歴史建築とはなにか
日本は「OECD(経済協力開発機構)加盟国」37カ国のうち、フィンランド・スウェーデンに次いで第3位の森林率を誇る、森林が豊富な国です。(出典:世界森林資源評価(FRA)2020メインレポート 概要/2020年7月現在)
日本では古くから、この豊富な森林=木材を使い様々なものを作ってきました。建築物もその一つです。
建築物は、その工法によって大きく2つに分けられます。日本の伝統的な建築技法で釘などの金物を使わず、木の特性を活かす継ぎ手・仕口などで建てられる木造建築である「伝統工法(伝統建築)」と、1950(昭和25)年に制定された建築基準法に則った建築で、西洋建築のシンプルで大量生産の思想を取り入れた建築の「在来工法(現代建築)」です。
建設後50年を経過した建築物は全て文化財の候補なので、「伝統工法(伝統建築)」でも「在来工法(現代建築)」でも文化財となり得る建築はあります。しかし「伝統工法(伝統建築)」の建築物は、一度失われると二度と建築することが出来ないなど価値が高いものが多いことから、ルカオが特に注目している歴史建築です。そんな歴史建築の入浴施設はさらに希少価値が高く、後世に残していくべき宝だと思っています。